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商業登記制度の歴史|中世イタリアの商人ギルドから、明治の商法・令和のオンライン化まで

変更登記の申請書に「会社法人等番号」を書き込むとき、この番号を国家が管理し始めたのがいつからか、 考えたことはあるでしょうか。会社の情報を公的に記録し、誰でも確認できるようにする—— この「登記」という仕組み自体には、明治より、イギリスより古い起源があります。 中世イタリアの商人ギルドから、お雇い外国人が起草した明治の商法、そして令和のオンライン申請まで、 商業登記制度がたどってきた歴史を追います。

なぜ会社の情報は「登記」されるのか

現在、日本で株式会社を作ったり、役員や本店を変更したりすると、その内容は法務局の登記簿に記録され、 誰でも登記事項証明書を取得して確認できます。

これは当たり前の仕組みに見えますが、 「取引相手の情報を、国家が記録し、外部に公開する」という発想自体は、実はそれほど古いものではありません。

起源をたどると、中世の商人たちが自分たちの取引を守るために作った帳簿にまでさかのぼります。

中世イタリアの商人ギルドと、最初の「事業登記簿」

11世紀ごろのヨーロッパでは、都市に定住した商人たちが商人ギルドという組織を作りました。 目的は営業権の防衛と、遠隔地取引の安全確保です。

ギルドは会員の名簿や取引契約、財務取引を詳細な帳簿に記録し、 契約や事業記録を市庁舎や教会に保管させていました。「事業に関する記録を、公的な場所に預ける」という 現代の登記制度に通じる発想が、すでにここにありました。

中でも具体的な記録が残っているのが、ジェノヴァのサンジョルジョ銀行です。 1407年に設立されたこの銀行は、有力な貿易会社の活動や財務取引を記録した、現存する最古級の事業台帳を 管理していたとされます。

同じ時代のイタリア諸都市では、資本の出し手と、実際に航海や取引を行う者が 契約を結んで利益を分配するコンメンダという出資形態も広まっていました。 起源はさらに古く、イスラム商人の間でも使われていたといわれています。

なぜ記録を残す必要があったのか。当時の地中海貿易は、船が難破する、出資者や船主が航海の途中で 死亡するといったリスクと常に隣り合わせでした。

口約束の出資契約しかなければ、船が無事に戻ってきたとしても 「誰がいくら出資し、利益をどう分けるか」を後から証明する手段がありません。ギルドの帳簿や公的な保管場所への 記録は、こうした場合に出資者やその遺族が自分の取り分を主張できる根拠になりました。

「誰でも法人になれる」時代の始まり

中世の商人ギルドの帳簿から、国家が運営する公式な会社登記制度へ——この転換は、驚くほど最近の出来事です。

国・出来事
1604年スウェーデンが正式な会社登記簿を確立
1844年イギリス:Joint Stock Companies Act により Companies House 設立。世界初の近代的な全国ビジネスレジストリ
1861年ドイツ:Allgemeines Deutsches Handelsgesetzbuch(統一商法典)制定
1897年ドイツ:現行 HGB(商法典)制定。Handelsregister(商業登記)の基礎に

特に画期的だったのが1844年のイギリスです。それ以前、会社を法人として設立するには、 国王の勅許や議会の特別立法が必要でした。1801年から1844年までの43年間で法人化された会社は、 わずか約100社にすぎません。

Joint Stock Companies Act は、登記さえすれば誰でも法人を作れる制度を 初めて整え、Companies House という中央登記機関を生み出しました。「法人になる」ことが、 特権から手続きに変わった瞬間です(なお、株主の有限責任が一般的に認められるのは1855〜1856年の 別の法律まで待つ必要があり、1844年の時点では登記による設立が可能になったにとどまります)。

この転換が実際に何を可能にしたか。1830年代のイギリスは鉄道建設の時代で、1本の鉄道会社が 線路や機関車をそろえるには、個人の資産家数人では到底足りない資金が必要でした。

議会の特別立法でしか 法人が作れない時代は、こうした大規模な資金を不特定多数の投資家から集める会社を、そのたびに議会を 通さなければ作れなかったということです。

登記さえすれば会社を作れる制度は、鉄道のような大規模事業が 多数の一般投資家から出資を募ることを可能にし、さらに登記簿に会社の存在と役員が記録されることで、 面識のない投資家同士でも「この会社は実在し、誰が代表者か」を確認できるようになりました。

日本への輸入——お雇い外国人と明治の商法

この近代的な登記制度が日本に持ち込まれたのは、明治に入ってからです。 起草に深く関わったのは、外務省の法律顧問として1878年(明治11年)に来日したヘルマン・ロエスレルというドイツ人でした。

ロエスレルは1881年から1884年にかけて商法の草案を執筆します。 フランス・ドイツの商法を参考にしたこの草案が、日本の会社法制の土台になりました。

1890年(明治23年)4月26日、旧商法が公布されます。当初は1891年施行の予定でしたが、 実業界からの準備期間の要望を受けて延期が重ねられ、1893年(明治26年)7月1日、 「商法及商法施行条例中改正並施行法」(明治26年法律第9号)により商業登記簿・商業帳簿・ 修正を施した会社・手形・破産に関する規定のみが施行されました。

旧商法のすべてではなく、 まず商業登記に関わる部分から動き出したかたちです。これが日本における商業登記制度の実質的なスタートとされています。

ただし旧商法には民法との矛盾が多く、商慣習にも合わない部分がありました。そのため1899年(明治32年)、旧商法を全面的に改正する形で現行の基礎となる商法が新たに制定されます。

明治の日本でこの制度が果たした役割も、イギリスと同じ構図でした。初めて取引する相手の商号・本店所在地・ 代表者が誰かは、それまで個人的なつながりや評判に頼るしかありませんでした。

登記により、法務局の職員が 審査したうえで記録された情報が公開されることで、面識のない相手とでも「この会社は実在し、代表者は誰か」を 確認したうえで安心して取引できるようになったのです。

📌 「商業登記法」ができたのは、実は昭和38年
明治の商法にはすでに登記の規定が含まれていましたが、それは商法という大きな法律の一部でした。
「商業登記法」という独立した単行法が制定されたのは、実は1963年(昭和38年)7月9日公布・ 翌1964年4月1日施行です。明治23年の旧商法から数えると、登記のルールが独立した法律になるまでに 70年以上かかったことになります。

紙の登記簿が消えるまで、17年

パソコンで書類を作ること自体は昔からできましたが、それと登記簿という「原本」そのものがコンピュータで 管理されているかは別の話です。

長らく登記簿は法務局ごとに紙の帳簿として保管され、その会社の登記事項証明書は 原則、その会社を管轄する法務局まで行くか郵送で取り寄せるしかありませんでした。手書きの帳簿を書記官が 1件ずつ書き足し、破損や紛失のリスクも紙である以上避けられません。日本の登記簿がコンピュータで 管理されるようになったのは、平成に入ってからのことです。

商業登記のコンピュータ化は1990年(平成2年)6月14日、東京法務局墨田出張所への指定から始まりました。 そこから全国の法務局へ段階的に広がっていき、2007年(平成19年)5月21日、 旭川地方法務局礼文出張所・利尻出張所が稚内支局へ統合されたことで、全国すべての法務局での指定が完了します。

最初の指定から、実に17年かけての移行でした。コンピュータ化された法務局では、その場で 即時に登記事項証明書を発行できるようになり、記載内容の更新も手書きより確実・迅速になりました。 紙の帳簿が最後の1冊まで電子化されたのは、令和の読者にとってはむしろ最近の話に感じられるかもしれません。

📌 1400年、変更登記を繰り返してきた会社
制度としての商業登記は明治からですが、登記される「会社」という存在自体はもっと古くから続いています。 大阪の建設会社金剛組は、578年(敏達天皇7年)、聖徳太子が四天王寺建立のために 百済から招いた工匠・金剛重光によって創業されたと伝わります。
個人商店・家業として続いたのち 1955年に法人化、2005年からは髙松建設グループの一員として存続しています。ギネス世界記録にも 「現存する世界最古の企業」として登録されたことがあります。1955年の法人化以降、金剛組もこの記事で 扱ってきたのと同じ変更登記を、何度も経験してきたはずです。

そして今——オンライン化の現在地

コンピュータ化が完了したあとも、商業登記の手続きは少しずつオンラインに移行してきました。2021年(令和3年)2月15日の商業登記規則改正で、商業登記電子証明書のオンライン請求が より便利になり、2022年(令和4年)3月7日からは電子証明書の休止・再開等の届出もオンラインで 提出できるようになっています。

法務省・デジタル庁は2026年7月から、スマートフォンのGビズID アプリで電子署名ができる「リモート署名方式」の運用開始を予定していました(従来のローカル署名方式とは 並存する形)。

制度は新しいが、会社という営みはずっと古い

中世イタリアの商人ギルドの帳簿から、明治のロエスレル草案、平成のコンピュータ化、令和のオンライン化まで—— 「会社の情報を公的に記録し、誰でも確認できるようにする」という発想は、少しずつ形を変えながら 150年近く日本で運用されてきました。

それでも、金剛組のように登記そのものよりずっと長く続く会社があることを思うと、 制度は会社という営みを支える器の一つに過ぎないのかもしれません。

決議日を入力すれば申請書や議事録が即日そろう今の環境は、17年かけて紙からコンピュータへ移行した 歴史のうえに立っています。

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よくある質問

Q. 商業登記制度はどこの国で始まったのですか?

近代的な全国統一の会社登記制度として最初に整えられたのはイギリスで、1844年のJoint Stock Companies Act によりCompanies Houseが設立されました。

ただし「事業に関する記録を公的な場所に残す」という発想自体は、 中世イタリアの商人ギルドの帳簿(11世紀以降)にまでさかのぼるとされています。

Q. 日本の商業登記制度はいつ始まりましたか?

1890年(明治23年)に旧商法が公布され、実業界の準備期間確保のための延期を経て、1893年(明治26年)7月1日に 商業登記簿・商業帳簿・修正を施した会社・手形・破産に関する規定が施行されたのが、日本における商業登記制度の 実質的なスタートとされています。

1899年(明治32年)には旧商法を全面改正した現行の基礎となる商法が制定されました。

Q. 「商業登記法」という法律ができたのはいつですか?

1963年(昭和38年)7月9日公布、1964年(昭和39年)4月1日施行です。それ以前の登記の規定は、 商法という大きな法律の一部として運用されていました。

Q. 商業登記のコンピュータ化はいつ完了しましたか?

最初の指定は1990年(平成2年)6月14日(東京法務局墨田出張所)、全国すべての法務局での指定完了は 2007年(平成19年)5月21日です。17年をかけて全国の登記所が紙の登記簿からコンピュータ管理へ移行しました。

出典:伊藤塾「商業登記制度の沿革」、Wikipedia「商法」「商業登記法」「金剛組」「ジョイント・ストック・カンパニー」、 早稲田大学「日本商法の源流・ロェスレル草案」、日本法令索引、商業登記コンピュータ化指定日一覧(fol.skr.jp)、 法務省・デジタル庁「商業登記電子証明書のリモート署名方式の導入について」、法務局「商業・法人登記」案内、 清水ふさ子「明治期における会社法と会社の記録管理について」学習院大学人文科学論集XXIX(2020)、 Companies House(英国)公式ブログ、Foster Moore「The Origin and Evolution of Company Registers」。 本記事は2026年8月時点の情報に基づきます。

関連記事:会社法人等番号と法人番号の違い変更登記の申請期限は2週間

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